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橋本病(甲状腺機能低下症)

 甲状腺機能低下症

甲状腺自体のホルモン合成能が低下して起こるタイプ、甲状腺機能を調節する脳のホルモンの異常によっておこるタイプ、さらにその他の原因による甲状腺機能低下症があります。

頻度が高いのは甲状腺自体の異常による甲状腺機能低下症であり、その大半は慢性甲状腺炎(橋本病)に起因するものです。橋本病は女性に多く見られ、検診などで甲状腺の腫れを指摘され発見されることがよくあります。

甲状腺機能は正常~軽度低下までさまざまで、経過観察でよい例も多数存在します。

その他の原因として要注意なのは、ヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症です。

甲状腺ホルモンの合成は過剰なヨウ素摂取で抑制されます。

昆布、わかめ、ヒジキなど海藻類の摂取過剰、ヨード系うがい薬の過剰使用などが軽症甲状腺機能低下症の原因となることがあるので注意が必要です。

A. 症状

甲状腺ホルモンが不足すると全身の代謝が低下し多様な自覚症状が現れます。

皮膚の乾燥、寒がり、便秘、まぶたのむくみ、倦怠感、意欲低下、毛髪や眉毛外側の脱落などが様々な程度で出現します。

学童では学力の低下がみられることがあります。

甲状腺は腫大しますが、目立たない場合もあります。

B. 検査所見

甲状腺ホルモン濃度(遊離T3、遊離T4)が低下し、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇します。

軽症例では甲状腺ホルモンは正常にもかかわらずTSHのみが軽度上昇することがあります。

これは甲状腺ホルモン不足を補うため、TSHを過剰に分泌して甲状腺機能を正常に維持しようとする生体反応の現れです。

TSHは甲状腺機能異常を最も鋭敏に反映するホルモンです。

慢性甲状腺炎(橋本病)では甲状腺に対する自己抗体が検出されます。

抗甲状腺マイクロゾーム抗体(甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)、抗サイログロブリン抗体などがありますが前者に比べ後者の陽性率が高いといわれています。

その他甲状腺ホルモンはコレステロール代謝を促進する作用があり、甲状腺機能低下症では血清コレステロールが高値を示します。

また筋肉に含まれるクレアチニンキナーゼの代謝が障害され高値を示します。

超音波検査では甲状腺は腫大し内部は粗造、低エコー輝度、表面の凹凸不整などの所見がありますが、正常所見を示すことも少なくありません。

C. 治療

甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を投与します。

チラージンS 50㎍から開始することが多いのですが、高齢者、心不全や虚血性心疾患合併例では少量より開始し慎重に増量します。

12.5㎍錠も使用できるので用量調節に便利です。

長期間服用し甲状腺機能が安定していれば短期間の中止(手術などに際して)は問題ありません。

D. 不妊症と甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンは卵子の成熟、受精卵の着床、胎盤機能維持などに重要な役割を果たしており、甲状腺機能低下症は不妊の一因になります。

不妊外来などでTSHが基準を超える明らかな甲状腺機能低下症が発見されれば当然治療が必要です。

問題となるのは橋本病を示唆する甲状腺自己抗体を持ちながら甲状腺機能が正常範囲に保たれている不妊症の方への対応です。

甲状腺自己抗体は不妊や卵巣予備能低下に関連する可能性があります。

自己抗体陽性の甲状腺機能正常者に対する甲状腺ホルモン投与の有効性を示すエビデンスは残念ながらまだありません2)

しかしTSHが正常下限にある甲状腺自己抗体陽性の不妊症の場合、TSHレベルを少量の甲状腺ホルモン投与で正常上限に維持することは、より妊娠に適した環境を作る意義があるのではないかと考えています。

E. 妊娠と甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症を合併した妊婦では治療に注意が必要です。

甲状腺ホルモンは胎児の脳神経の発達に重要です。

胎児の甲状腺が発達し、甲状腺ホルモンが分泌されるまでは母体から甲状腺ホルモンを十分に送ることが重要です。

この期間に母体の甲状腺機能低下症による胎児の甲状腺ホルモン不足があると、精神機能、認知機能などの神経機能発達に悪影響を及ぼす可能性が示唆されています。

妊娠が判明したら直ちに甲状腺ホルモン服用量を約30%増量すること、その後はTSHの値を見ながら投与量を調節することが提唱されています3)

 

 2) Dosiou C: THYROID,30.2020

 3) Alexander EK: N Engl J Med,351.2004

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