橋本病(甲状腺機能低下症)
橋本病は、本来は細菌やウイルスなど外敵から体を守る役割を持つ免疫システムが、自分自身の甲状腺を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。慢性甲状腺炎とも呼ばれ、甲状腺の病気の中でも非常に頻度が高く、特に成人女性に多く見られるのが特徴です。広島市中区の広電八丁堀駅から徒歩5分の場所にある当院でも、多くの患者さんが治療や経過観察のために通院されています。甲状腺はのどぼとけの下にある小さな臓器で、新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを作っています。橋本病によって慢性的な炎症が続くと、甲状腺の組織が少しずつ壊されていき、ホルモンを作る力が低下してしまいます。これが「甲状腺機能低下症」と呼ばれる状態です。しかし、橋本病であっても甲状腺の機能が正常に保たれている方も多く、すべての患者さんにすぐ治療が必要なわけではありません。当院では、院内検査でその日のうちに甲状腺ホルモンの数値を測定し、一人ひとりの病状やライフスタイルに合わせた最適なサポートを心がけています。
橋本病(甲状腺機能低下症)の症状について
甲状腺ホルモンは「全身の代謝を司るエンジン」のような役割を果たしています。そのため、このホルモンが不足するとエンジンの回転数が落ちたような状態になり、全身にさまざまな不調が現れます。橋本病の症状は多岐にわたり、一つひとつは「加齢のせいかな」「ただの疲れかな」で見逃されやすいものも多いため注意が必要です。
全身に現れる主な症状
代謝が低下することで、エネルギーがうまく作れなくなり、以下のような症状が目立つようになります。
- 常に体がだるく、疲れやすい(倦怠感)
- 寒さに異常に弱くなる(寒がり)
- 汗をかきにくくなり、皮膚がカサカサに乾燥する
- 顔(特にまぶた)や手足がむくみやすくなる
- 体重が以前よりも増えやすくなる
全身のだるさについては、他の病気との見分けが難しいこともあります。
倦怠感の正体を知りたい方は「糖尿病と倦怠感」のページも参考にしてください。
精神面や神経系の変化
脳の活動も緩やかになるため、精神的な活力が低下したり、認知機能に影響が出たりすることがあります。
- 気力がわかず、何をするのも億劫になる
- 記憶力が低下し、物忘れが増える
- 常に眠気が強く、いくら寝ても眠い
- 動作や話し方がゆっくりになる
- 学童期のお子さんの場合、学力が低下することがある
身体の各部位に起こる変化
内臓の動きや毛髪の健康にも甲状腺ホルモンは深く関わっています。
- 胃腸の動きが鈍くなり、頑固な便秘になる
- 脈拍がゆっくりになり、脈が飛ぶように感じることがある
- 髪の毛が抜けやすくなったり、眉毛の外側が薄くなったりする
- 声がかすれたり、低くなったりする(しわがれ声)
- 甲状腺そのものが腫れて、首のあたりが太く見える
抜け毛や髪質の変化でお悩みの方も、実は甲状腺が原因かもしれません。
詳細については「甲状腺の病気が薄毛に影響??」のページを参照してください。
橋本病の原因について
橋本病の根本的な原因は、自分の甲状腺を攻撃してしまう「自己抗体」が作られてしまうことにあります。なぜこのような自己免疫の異常が起こるのかについては、完全に解明されているわけではありませんが、遺伝的な背景にストレス、不規則な生活、出産、感染症、あるいはヨウ素の過剰摂取などの環境要因が重なって発症すると考えられています。
自己免疫による慢性炎症
橋本病の患者さんの血液を検査すると、甲状腺に対する「抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)」や「抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)」といった自己抗体が高確率で見つかります。これらの抗体が甲状腺を慢性的に攻撃することでリンパ球が甲状腺に集まり、持続的な炎症が起こります。この炎症が長期間続くことで甲状腺の細胞が徐々に減少し、最終的にホルモンが不足してしまいます。
ヨウ素(ヨード)の摂取制限と影響
甲状腺ホルモンの原料である「ヨウ素」は、適切に摂る必要がありますが、過剰に摂取すると逆にホルモン合成を抑制してしまう性質があります。日本人は海藻類を好む習慣があるため、意識せずにヨウ素を摂りすぎている場合があります。以下のものには注意が必要です。
- 昆布、わかめ、ひじきなどの海藻類(特に昆布だし)
- ヨード系うがい薬の頻繁な使用
- 一部の健康食品やサプリメント
軽度の甲状腺機能低下症であれば、海藻の摂取を控えるだけで数値が改善することもあります。当院では患者さんの食生活についても詳しくお伺いし、具体的なアドバイスを行っています。
橋本病の病気の種類について
橋本病に関連する病態は、大きく分けていくつかのパターンが存在します。自分がどの段階にあるのかを正しく把握することが、治療の必要性を判断する上で重要です。
甲状腺機能正常な橋本病
自己抗体は持っており、検査で橋本病と診断されるものの、甲状腺ホルモンの分泌量は正常な範囲内に保たれている状態です。多くの方はこの段階にあり、すぐに薬を飲む必要はありません。ただし、将来的に機能が低下する可能性があるため、定期的な血液検査で様子を見ていくことが大切です。
潜在性甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモン(FT4)の値は正常範囲内ですが、脳から「もっとホルモンを出せ」という命令を出す「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の値だけが高くなっている状態です。これは甲状腺が必死に頑張ってホルモン量を維持しようとしている段階です。症状がある場合や、妊娠を希望されている方の場合は、この段階から治療を検討します。
顕在性甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が明らかに不足し、TSHが高値を示している状態です。この段階になると、前述したような全身の症状がはっきりと現れやすくなります。放置すると、コレステロール値が上昇して動脈硬化が進んだり、心臓の機能に悪影響を及ぼしたりするリスク因子となるため、適切な治療が不可欠です。
動脈硬化のリスクについては、「動脈硬化について」のページも併せてご覧ください。
橋本病の治療法について
橋本病の治療の目的は、不足している甲状腺ホルモンを補い、ホルモンバランスを正常な状態(健常な方と同じレベル)に戻すことにあります。これにより、不快な症状を取り除き、合併症を予防することが期待できます。
甲状腺ホルモン補充療法
基本となる治療法は「レボチロキシンナトリウム(製品名:チラージンSなど)」という甲状腺ホルモン剤の内服です。これは体内で作られるホルモンと同じ成分であるため、適切な量を服用していれば副作用は非常に少なく、安心して長期間継続できるお薬です。
- 少量(12.5μg〜50μg程度)から開始し、数週間ごとに血液検査を行いながら最適な量を決定します。
- 高齢者や心臓に持病がある方の場合は、心臓への負担を考慮してさらに慎重に増量していきます。
- 一度適量が決まれば、その後の日常生活に制限はなく、定期的な受診で数値をチェックするだけで済みます。
治療の継続と生活の注意点
橋本病は完治させて薬をやめるというよりは、不足分を補いながら上手に付き合っていく病気です。自己判断でお薬を中断すると、再び症状が現れたり、数値が悪化したりするため、治療を中断しないことが何より重要です。
お薬の量や飲み方については、当院の「栄養指導のご相談」でも、食事面を含めたトータルなアドバイスが可能です。
不妊症・妊娠と橋本病の関係
甲状腺ホルモンは、女性の生殖機能や赤ちゃんの健やかな成長に非常に深く関わっています。そのため、不妊症にお悩みの方や妊娠中の方は、通常よりも厳格な管理が求められます。
不妊症との関わり
甲状腺ホルモンが不足すると、卵子の成熟が不十分になったり、受精卵の着床が妨げられたりすることがあります。また、甲状腺の機能が正常範囲内であっても、橋本病の自己抗体を持っているだけで不妊や流産のリスクが高まる可能性が指摘されています。当院では、不妊治療中の方のTSHレベルを細かく調整し、より妊娠しやすい体内環境を整えるお手伝いをしています。
不妊治療と甲状腺の関係については、「甲状腺疾患と不妊」のページで詳しく解説しています。
妊娠中の重要性
お腹の中の赤ちゃんは、妊娠初期には自分自身で甲状腺ホルモンを作ることができず、すべてお母さんからの供給に頼っています。この時期にホルモンが不足すると、赤ちゃんの脳や神経の発達に影響を及ぼす恐れがあります。妊娠が判明した直後から薬の量を増やす必要がある場合が多いため、早めの相談が必要です。
妊娠中の管理については、「甲状腺疾患と妊娠」のページを必ずご確認ください。
橋本病についてのよくある質問
Q1. 橋本病は遺伝しますか?
A1. 橋本病そのものが必ず遺伝するわけではありませんが、体質(自己免疫疾患になりやすい傾向)は遺伝的な要因が関与していると言われています。ご家族に甲状腺疾患の方がいらっしゃる場合は、一度検査を受けておくと安心です。
Q2. 海藻は絶対に食べてはいけないのでしょうか?
A2. 極端に避ける必要はありませんが、昆布だしを毎日大量に使った料理や、ひじきの煮物を毎食食べるような「過剰な摂取」は控えるべきです。日本人の一般的な食生活であれば、適量を楽しむ分には問題ないことが多いですが、数値が不安定な場合は指導に従ってください。
Q3. 薬はずっと飲み続けなければなりませんか?
A3. 甲状腺機能が低下している場合は、生涯にわたって服用が必要になることが多いです。しかし、メガネをかけて視力を補うのと同じように、足りないものを補っているだけですので、飲み続けることで健康な方と変わらない生活を送ることができます。
Q4. バセドウ病とはどう違うのですか?
A4. バセドウ病は甲状腺ホルモンが「作られすぎる」病気(機能亢進症)で、橋本病は「不足する」病気(機能低下症)です。真逆の病態ですが、どちらも自己免疫疾患という共通点があります。まれに橋本病からバセドウ病へ、あるいはその逆の変化が起こることもあります。
バセドウ病の詳細については、「バセドウ病(甲状腺機能亢進症)」のページを参照してください。
院長より
江草玄士クリニックの院長、江草玄士です。私はこれまで長年、広島大学医学部付属病院などで糖尿病や甲状腺疾患をはじめとする内分泌代謝内科の臨床に深く携わってきました。橋本病は女性にとって非常に身近な疾患ですが、その症状は多岐にわたり、診断がつくまで「ただの体調不良」として一人で悩まれている方も少なくありません。当院の大きな強みは、甲状腺ホルモン値を院内で迅速に測定できる環境を整えていることです。検査結果をその日のうちにお伝えし、直ちに必要な治療方針を決定することができます。これにより、何度も来院していただく負担を減らし、スピード感のある治療提供が可能となっています。
特に不妊治療中の方や、妊娠を望まれている方にとって、甲状腺の状態を最適に保つことは非常に大切です。当院では不妊外来や総合病院の専門医とも密に連携を取りながら、新しい命を迎えるためのサポートに力を入れています。私自身、日本糖尿病学会 専門医・研修指導医としての経験も活かし、動脈硬化やコレステロール値への影響など、全身の健康管理という広い視点で橋本病の診療を行っております。広島市中区八丁堀という通いやすい場所で、皆さんの「なんとなく不調」の背景にある原因を一緒に見つけ出し、健やかな毎日を取り戻すお手伝いをしたいと考えています。どんな些細な不安でも構いません。どうぞお気軽に江草玄士クリニックへご相談ください。
当院の診療への取り組みについては、こちらの「当院の特徴」のページもぜひご覧ください。
