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甲状腺の病気について

1. バセドウ病

甲状腺機能亢進を示す疾患の中で最も頻度が高いのがバセドウ病です。しかし少数ですが無痛性甲状腺炎や妊娠中の一過性機能亢進もあるため鑑別が必要です。バセドウ病は甲状腺細胞にある甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体が、受容体を持続的に刺激するため甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。年齢、性別を問わず起こりますが、一般に若い女性に多く、遺伝素因と環境因子の影響で発症すると考えられていますが、詳細はまだ不明です。

A. 症状

過剰に分泌された甲状腺ホルモンにより、頻脈、動悸、時に不整脈(心房細動)、手指の震え、発汗・皮膚湿潤、食べるのに痩せる、イライラし怒りっぽくなる、など多彩な症状が現れます。甲状腺は腫大し、眼球突出、下方注視時白目が見える、複視など眼の異常がみられることがあります。女性では月経周期の異常、無月経などがみられることがあります。高齢者のバセドウ病ではこのような症状が明らかでなく、抑うつ状態を呈することもあります。学童期発症では学業成績の低下、授業への集中力低下などで発見されることもあります。

B. 検査所見

バセドウ病を疑ったら血液中の甲状腺ホルモン濃度(遊離T3、遊離T4)および脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定します。遊離T3、遊離T4の両者又は一方が増加し、逆にTSHは感度以下に低下します。さらに甲状腺刺激抗体(TSAb)あるいは抗TSH受容体抗体(TRAb)が陽性であればバセドウ病と診断できます。

甲状腺機能亢進症ではコレステロールの代謝速度が速まるので血中コレステロール値が低くなります。また軽度の肝機能障害を認めることもあり、これらがバセドウ病発見のきっかけになることがあります。

甲状腺ホルモンが高値にもかかわらずTRAb、TSAbなど自己抗体が陰性の時は、無痛性甲状腺炎(慢性甲状腺炎の経過中に起こる一過性機能亢進状態)を鑑別する必要があります。

C. 治療

1) 薬物療法

バセドウ病の治療としては薬物療法が第一選択になります。ただし長期間服用が必要であること、治癒率が低いことが問題です。チアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)の2種類があります。歴史の古い薬ですがいまだに治療薬の主流です。MMIはPTUに比べて切れ味が良いので最初に使用されることが多い薬剤です。MMIが副作用で使用できないときや、妊娠前・妊娠中、授乳中にはPTUが使用されます。

MMIやPTUには注意すべき副作用があります。かゆみや薬疹など皮膚症状が時に見られます。肝機能障害は軽症例が大半ですが、発見が遅れ黄疸が認められるような場合は治療に時間がかかります。

特に注意が必要な副作用は無顆粒球症です。血液中の白血球に含まれる好中球は、体に侵入した細菌を殺菌する大切な働きをしています。MMIやPTUは骨髄に障害を及ぼし、好中球の数を著しく減少させてしまうことがあります。これを無顆粒球症といいます。細菌に対する抵抗力が失われ、重篤な感染症を引き起こします。突然の悪寒戦慄、高熱をきたし、場合によっては致命的な状況に陥ります。

これらの副作用はほとんど投与後数か月以内に起こるので、治療開始前と開始後は定期的に肝機能や白血球数、好中球数を検査し、また自覚症状の変化(突然の咽頭痛、高熱など)に注意することが必要です。異常を感じたら直ちに薬剤を中止しかかりつけ医療機関へ連絡することが重要です。

2) 放射性ヨウ素治療

放射性ヨウ素(131I)を服用し、甲状腺のホルモンを作る細胞を破壊する治療法です。放射性ヨウ素は放射能の及ぶ範囲が小さく、消失速度も速いのでこの治療法の安全性は確立されており、米国ではバセドウ病治療の主流となっています。副作用のため薬物が服用できない時、長期の薬物治療で治癒しない時、職業柄頻回の通院が困難な場合などに放射性ヨウ素治療を考慮します。ただし妊娠中、授乳中、近い将来妊娠の可能性がある場合、小児では禁忌です。この治療後にバセドウ病に伴う眼症状の出現・悪化がみられることがあるので注意が必要です。

3) 手術療法

バセドウ病の治療法として選択順位は低くなりますが、短時間で機能亢進を正常にすることができます。甲状腺腫瘍を合併したバセドウ病、副作用で甲状腺治療薬が服用できない時、甲状腺腫がかなり大きい時、長期の内服治療でも減薬が困難な時などに手術療法を考慮します。全摘が推奨されていますが甲状腺機能低下症となるためホルモン補充療法が生涯必要になります。一方部分切除では再発の危険性が残ります。副甲状腺機能低下症、反回神経麻痺(声が出にくくなる)が手術時の合併症として時に見られます。

D. 不妊症とバセドウ病

甲状腺機能亢進状態では黄体形成ホルモンやエストロゲンの分泌異常が起こるため排卵異常や月経異常(無月経、稀発月経)が起こりやすくなり、不妊症の原因になることがあります。妊娠前には一度甲状腺機能を検査しておくことが必要かもしれません。もしバセドウ病が発見されたらその治療を優先し、安全に妊娠・出産に臨むことが重要です。

E. 妊娠とバセドウ病

バセドウ病は若年女性が発症しやすいため、妊娠とバセドウ病のかかわりは重要な問題です。妊娠中バセドウ病が適切に治療されず機能亢進状態が持続した場合、早産、死産、低体重児出産などの危険性が高まります。妊娠中は甲状腺機能を適正にコントロールすることが母体、胎児双方にとって極めて重要といえます。コントロール不良のバセドウ病患者は妊娠を避ける必要があり、コントロールができた後妊娠を許可するという「計画妊娠」を行うべきと考えます。結婚、妊娠の可能性がある患者では、この点に関し普段から主治医と相談しておく必要があります。

妊娠中のバセドウ病治療は薬物治療が推奨されます。妊娠初期は奇形のリスクを高めることが知られているMMIの服用は避け、PTUを用いるようにします。MMIで良好にコントロールされていた場合でも妊娠前にはあらかじめPTUに変更しておきます。妊娠中は甲状腺機能が改善し服用量が少なくなる例も見られます。しかし妊娠中期を過ぎてもPTUで甲状腺機能がコントロールできない場合はMMIに変更することがあります。

母乳を介しての乳児への移行はPTUがMMIより少ないとされています。出産後バセドウ病が悪化することがあり、その場合授乳中の母親に薬物治療を行う必要が出てきます。ガイドラインではPTU 50㎎錠1日6錠まで、MMI 5㎎錠1日2錠までなら乳児の甲状腺機能に影響を与えないので安全に投与できるとされています1)

2. 甲状腺機能低下症

甲状腺自体のホルモン合成能が低下して起こるタイプ、甲状腺機能を調節する脳のホルモンの異常によっておこるタイプ、さらにその他の原因による甲状腺機能低下症があります。頻度が高いのは甲状腺自体の異常による甲状腺機能低下症であり、その大半は慢性甲状腺炎(橋本病)に起因するものです。橋本病は女性に多く見られ、検診などで甲状腺の腫れを指摘され発見されることがよくあります。甲状腺機能は正常~軽度低下までさまざまで、経過観察でよい例も多数存在します。

その他の原因として要注意なのは、ヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症です。甲状腺ホルモンの合成は過剰なヨウ素摂取で抑制されます。昆布、わかめ、ヒジキなど海藻類の摂取過剰、ヨード系うがい薬の過剰使用などが軽症甲状腺機能低下症の原因となることがあるので注意が必要です。

A. 症状

甲状腺ホルモンが不足すると全身の代謝が低下し多様な自覚症状が現れます。皮膚の乾燥、寒がり、便秘、まぶたのむくみ、倦怠感、意欲低下、毛髪や眉毛外側の脱落などが様々な程度で出現します。学童では学力の低下がみられることがあります。甲状腺は腫大しますが、目立たない場合もあります。

B. 検査所見

甲状腺ホルモン濃度(遊離T3、遊離T4)が低下し、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇します。軽症例では甲状腺ホルモンは正常にもかかわらずTSHのみが軽度上昇することがあります。これは甲状腺ホルモン不足を補うため、TSHを過剰に分泌して甲状腺機能を正常に維持しようとする生体反応の現れです。TSHは甲状腺機能異常を最も鋭敏に反映するホルモンです。

慢性甲状腺炎(橋本病)では甲状腺に対する自己抗体が検出されます。抗甲状腺マイクロゾーム抗体(甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)、抗サイログロブリン抗体などがありますが前者に比べ後者の陽性率が高いといわれています。

その他甲状腺ホルモンはコレステロール代謝を促進する作用があり、甲状腺機能低下症では血清コレステロールが高値を示します。また筋肉に含まれるクレアチニンキナーゼの代謝が障害され高値を示します。

超音波検査では甲状腺は腫大し内部は粗造、低エコー輝度、表面の凹凸不整などの所見がありますが、正常所見を示すことも少なくありません。

C. 治療

甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を投与します。チラージンS 50ugから開始することが多いのですが、高齢者、心不全や虚血性心疾患合併例では少量より開始し慎重に増量します。12.5ug錠も使用できるので用量調節に便利です。長期間服用し甲状腺機能が安定していれば短期間の中止(手術などに際して)は問題ありません。

D. 不妊症と甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンは卵子の成熟、受精卵の着床、胎盤機能維持などに重要な役割を果たしており、甲状腺機能低下症は不妊の一因になります。不妊外来などでTSHが基準を超える明らかな甲状腺機能低下症が発見されれば当然治療が必要です。問題となるのは橋本病を示唆する甲状腺自己抗体を持ちながら甲状腺機能が正常範囲に保たれている不妊症の方への対応です。甲状腺自己抗体は不妊や卵巣予備能低下に関連する可能性があります。自己抗体陽性の甲状腺機能正常者に対する甲状腺ホルモン投与の有効性を示すエビデンスは残念ながらまだありません2)。しかしTSHが正常下限にある甲状腺自己抗体陽性の不妊症の場合、TSHレベルを少量の甲状腺ホルモン投与で正常上限に維持することは、より妊娠に適した環境を作る意義があるのではないかと考えています。

E. 妊娠と甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症を合併した妊婦では治療に注意が必要です。甲状腺ホルモンは胎児の脳神経の発達に重要です。胎児の甲状腺が発達し、甲状腺ホルモンが分泌されるまでは母体から甲状腺ホルモンを十分に送ることが重要です。この期間に母体の甲状腺機能低下症による胎児の甲状腺ホルモン不足があると、精神機能、認知機能などの神経機能発達に悪影響を及ぼす可能性が示唆されています。妊娠が判明したら直ちに甲状腺ホルモン服用量を約30%増量すること、その後はTSHの値を見ながら投与量を調節することが提唱されています3)

 

 1) バセドウ病治療ガイドライン2019: 日本甲状腺学会編集、南江堂

 2) Dosiou C: THYROID,30.2020

 3) Alexander EK: N Engl J Med,351.2004

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