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糖尿病について

1. 糖尿病とはどのような病気でしょう。なぜ増えているのでしょう?

糖尿病はラテン語が起源のDiabetes mellitus(Diabetes:尿が多量に出る、mellitus:蜜のように甘い)を日本語に訳したものです。人類は長い間飢餓と闘いながら生き延びてきました。その結果飢えに強い体の仕組みが備わってきました。例えば飢餓による低血糖から脳を守るため、生体には血糖上昇作用を有するホルモンが多数存在し、一方血糖を下げるホルモンはすい臓で作られるインスリンただ一つです。インスリンは筋肉、肝臓、脂肪組織などでブドウ糖を取り込んでエネルギー源として利用したり貯蔵したりします。糖尿病はインスリンの量や働きが低下するため、血液中のブドウ糖濃度が上昇し、慢性の高血糖状態をきたすことが特徴です。同時に脂肪や蛋白質の代謝にも障害を起こします。高血糖が持続すると尿量が増加しのどが渇き、水をたくさん飲むようになります。まさに「蜜のような甘い尿が多量に流れ出る」という古代から特徴とされていた症状が現れてきます。糖尿病は進行すると後で述べる多数の合併症が現れてきます。そのため社会的、医療経済的に大きな損失をもたらすことが問題です。

糖尿病は大きく1型と2型に分けられます。1型糖尿病はインスリンを作るすい臓の細胞が破壊されインスリン分泌が欠乏し、インスリン注射が生命維持に必須となるタイプです。若年発症が多いのが特徴ですが高齢発症も認められます。若年者には急性発症が多いのですが、中高年ではゆっくりと進行し2型糖尿病と区別がつきにくい緩徐進行型1型糖尿病も増えてきます。2型糖尿病はインスリン分泌が保たれているにもかかわらず、過食、運動不足、肥満などのためインスリン作用が相対的に低下し発症するタイプです。日本人の糖尿病の90%以上は2型糖尿病です。

糖尿病は増え続けています。2016年の国民健康・栄養調査によれば、糖尿病が強く疑われる者は約1000万人であり1997年の690万人に比べ1.4倍にもなっています。糖尿病は遺伝因子と環境因子双方の影響で発症しますが、日本人の糖尿病が急激に増加してきた主な原因は生活環境の欧米化によるもので、環境因子の影響が大きいと考えられています。

交通機関の発達や自動車の普及による運動量の低下、高脂肪・高カロリー食への嗜好の変化などは肥満を増強します。運動不足、高脂肪食、肥満はいずれも筋肉や肝臓、脂肪組織などでインスリンの働きを弱めてしまうので、これらの組織でブドウ糖を利用するためにはより多くのインスリンを必要とします。農耕民族を祖先とする日本人は、狩猟民族を祖先とする欧米人に比べすい臓からインスリンを出す力が約50%程度と弱いことがわかっています。したがって生活習慣の欧米化、肥満などが原因で、ブドウ糖処理のためにインスリン必要量が増えてくると、すい臓のインスリンを出す力が弱い日本人は欧米人に比べ、より早くすい臓が疲弊し糖尿病を発症してしまうのです。大きさが同じトラックでも欧米製はガソリンタンクが大きく、一方日本製はガソリンタンクが小さいので、荷物をたくさん積んで走れば日本製トラックが速く燃料切れを起こしエンストしてしまう、と考えれば理解しやすいでしょう。

もし日本人も欧米人のように強いすい臓をもっていたらどうなるでしょう。欧米型の高カロリー食を食べても、運動不足になっても、インスリンが十分にあるので糖尿病にはなかなかなりません。その代わりどんどん太ってしまい、白人のように高度の肥満となり、ついに糖尿病を発症することになります。同じ程度の糖尿病患者でも肥満の程度は欧米人が日本人より高度であることがわかっています。

生活習慣の欧米化で日本人男性の肥満化が顕著です。50歳以上では、1976~1980年ごろの肥満者の割合は16%程度であったのが2016年には約30%に増加しています。50歳以降から糖尿病の増加が明らかになってくるので、肥満の予防、すなわち運動量の増加、カロリーを摂りすぎないことが糖尿病予防に重要なポイントと考えられます。

2. 糖尿病の合併症にはどのようなものがあるでしょう?

糖尿病が恐れられているのは様々な合併症を引き起こし、生活の質を著しく低下させるからです。特徴的な合併症として透析に至る腎臓障害、失明に至る網膜症、下肢切断の誘因になる末梢神経障害があります。そのほか脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化症、認知症、歯周病、がんなど多くの疾患にもかかりやすくなります。糖尿病患者の死亡時年齢は日本人の平均寿命に比べて男性で8年、女性で11年短いことがわかっています。

A. 細小血管合併症

糖尿病は初期には無症状です。しかし罹病期間が長くなると様々な合併症が現れ患者さんを悩ませることになります。はじめに糖尿病に特徴的な細小血管合併症、すなわち神経、眼、腎臓の障害についてお話しします。

細小血管合併症は高血糖を重要な原因とし、細い血管がたくさん分布する器官に起こる糖尿病に特徴的な合併症であり、細小血管合併症といいます。

高血糖が持続するとタンパク質の変性、組織での酸化ストレス亢進などが起こり、神経、眼、腎臓などの細い血管の障害を起こします。これらの合併症は糖尿病発症後約10年前後で現れますが、神経、眼、腎臓障害の順に現れる傾向があります。血糖コントロールを良好に保つと細小血管合併症の進行が抑制されることはすでに証明されています。

1) 糖尿病神経障害

足先、指先などの末梢神経が対称性に障害されることが特徴です。足の裏にもちが張り付いたような感じがする、しびれてよく感覚がわからない、などが典型的な症状です。進行すると下肢の知覚が鈍り、傷や火傷などの痛みを感じなくなるため、気づかないうちに感染を起こし壊疽に至ることがあります。末梢神経障害が進行すると強いしびれや痛みに悩まされます。自律神経障害も進行例にみられます。膀胱機能異常(尿意を感じなくなる)、下痢・便秘の繰り返し、勃起障害など不快な症状が出現します。厄介なのは心血管系の自律神経障害です。立ち眩み、頻脈、狭心症発作でも胸痛を感じなくなる、不整脈などの症状が現れます。心血管系自律神経障害を伴う糖尿病患者は突然死の危険性が高まると報告されています。血糖コントロールの改善が最大の治療法です。自覚症状を軽減する治療薬がありますが、効果は限定的です。

2) 糖尿病網膜症

カメラのフイルムに相当する眼の器官を網膜といいます。網膜に十分な酸素を送るため、網の目状に細い動脈や静脈が分布しています。この動脈の血管壁は薄いので高血糖で障害されると破れて出血を起こします。出血を繰り返すと眼球内のゼリー状の部分が収縮し網膜を引っ張るため網膜剥離を起こします。フイルムがはがれることになり視力が低下し、失明することもあります。日本人の失明原因の第2位が糖尿病です。その予防のため進行例ではレーザー光線による網膜光凝固を行います。

眼底出血は自覚できないことが多く、早期発見には定期的な眼底検査が必須です。糖尿病になったら必ず眼科を受診し、指示に従って通院を継続するようにしましょう。発症予防に血糖コントロールは極めて重要です。

3) 糖尿病腎症

腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿中に排泄する重要な臓器です。たくさんの血管が集まり無数のろ過装置「糸球体」を形成しています。高血糖が持続すると糸球体が障害され、蛋白が尿に漏れる、老廃物がろ過できず血中に蓄積する、などの異常が起こってきます。血圧が高いと糸球体の障害が加速します。腎機能が低下し腎不全になると、血液透析を行い血液の浄化(透析)を行わなければなりません。我が国の透析患者数は増加の一途をたどっており、原因として糖尿病が最も多く最近では42.5%を占めています。

血糖コントロールを良好に維持すること、血圧を正常に保つことが腎障害予防のポイントです。最近SGLT2阻害剤という糖尿病の治療薬が腎障害の進行予防に有効であることが海外で明らかにされ、日本でも積極的に使われ始めており治療法にも進歩がみられます。

以上述べた神経障害、網膜症、腎症は糖尿病以外の疾患では見られず、糖尿病に特徴的な合併症です。発症時期の違いはあってもすべての患者さんに起こる可能性があります。発症早期から厳重に血糖管理を行うことが予防の要です。

4) 糖尿病性足病変

糖尿病は世界的に増加の傾向をたどり、海外では糖尿病足病変の予防と対策も重要視されております。諸外国での糖尿病足病変の年間発症率は約3%ですが、日本での年間発症率は約0.3%と海外の1/10程度です。しかし、糖尿病足病変は難治性病変であり、切断などに至れば死亡率も高くなる侮れない疾患です。最近では国内でも啓蒙活動が行われており、足病変に対する認知度が高くなってきましたが、それでも欧米などに比べると十分な足病変医療が供給できていおりません。欧米では足病医という専門家が存在しますが、国内では整形外科、形成外科、皮膚科などがその対応を行っております。足病変の原因は神経障害、血管障害、感染症の3つに大別(神戸分類を参照)されます。神経障害は糖尿病の合併症としても有名ですが、神経障害自体が足へ大きく影響します。神経障害が起こると足の知覚が鈍くなり、痛みなども感じにくくなります。そのため足に傷ができても気が付かず放置されて知らない間に感染も合併するという事態が発生します。また、糖尿病による網膜症の影響で視力低下が起こり、自分の足の状態が観察しにくくなることも原因です。つまり糖尿病の3大合併症が足へも大きく影響しているということになります。特にHbA1cが8%以上で足病変のリスクが高くなるといわれており、該当する方は定期的な足の観察を行うことをすすめております。

足病変はまず予防が重要です。当院では糖尿病内科医と形成外科医が連携することで足の健康を守ることを目的にしております。

当院では形成外科医と連携し、足外来(フットケア外来)を行っております。定期的な足の診察やフットケアを行い、早期から足の健康を理解して頂くことで足病変の予防を目的にしております。既に進行した症状がある場合や、外科的処置が必要になる場合には近隣専門施設をご紹介させて頂いております。

B. 大血管合併症

脳梗塞や虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患は、日本人の死亡原因として癌に次いで重要な位置を占めています。糖尿病は動脈硬化の進行を健常人に比べて約20年早めます。60歳の糖尿病患者さんの動脈硬化の程度は80歳の健常人と同じ程度です。

1) 糖尿病と心臓病

糖尿病では心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患を発症する危険性が非糖尿病者の約2~3倍高くなります。糖尿病では高血糖、内臓脂肪蓄積、高血圧、高脂血症、腎臓障害など多くの危険因子が重なりやすいことが原因です。喫煙はさらに発症の危険性を高めます。女性は男性に比べ正常者では虚血性心疾患が低率ですが、糖尿病になると4倍近く増加します。一般に女性の虚血性心疾患は男性より少ないので、動脈硬化危険因子の管理が男性ほど厳重に行われていないことが原因と思われます。心筋梗塞好発の時間帯は午前9時前後、就労男性では休日明けの月曜、女性では家族の世話や家事の負担が増える週末に発症が増加するとの報告があります。糖尿病では神経障害のため心筋梗塞を発症してもはっきりした症状がないこともあり、発見の遅れにつながります。さらに女性では激しい胸痛など心筋梗塞特有の症状が男性に比べて現れにくいため、発見が遅れ重篤化しやすいことも特徴です。動脈硬化は糖尿病が明らかになる前の軽症耐糖能障害の段階から進行が始まるため、検診で指摘があれば糖尿病発症前であっても生活習慣の管理を行い糖尿病発症予防に努めることが大切です。

動脈硬化進行の早期発見のため様々な検査が行われますが、簡単で苦痛のない検査として頸動脈エコーがあります。頸動脈にコレステロールが溜まり、丘状に盛り上がったプラークのある場合、虚血性心疾患、脳梗塞、突然死など合わせた心血管疾患を発症する危険性が高くなります。

歩行時の息切れを訴えて受診した65の男性例を紹介します。12年前から糖尿病を治療していますが血糖平均値を示すHbA1c 8.8%(基準7.0%以下)とコントロールは不良です。また一日30本の喫煙歴、蛋白尿、内臓脂肪蓄積など認めますが悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)は100mg/dLと高くありません。この患者さんの左頸動脈には厚さ2.8mmのコレステロールの盛り上がり(プラーク)を認めました。日本人では頸動脈に溜まったコレステロールの厚みは80歳でも平均1.0mmであり、この患者さんではかなり肥厚していることがわかります。動脈硬化性疾患発症の危険性が高いと考え、血栓防止薬やコレステロール低下薬など投与し、その後血糖コントロールも徐々に改善してきました。しかし1年後心臓の栄養血管が3本とも高度に狭窄していることがわかり、冠動脈バイパス手術を受けるに至りました。入院中に脳梗塞も発症し結局寝たきりとなってしまいました。糖尿病があるとこのような出来事が稀ではありません。

2) 糖尿病と心不全

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。この働きが悪くなりポンプ機能が低下した状態を心不全といいます。糖尿病になると心不全の頻度が非糖尿病者の2~3倍高くなり、死亡原因としても重要です。糖尿病では冠動脈の動脈硬化が原因で心筋梗塞を発症する患者さんが増加します。心筋梗塞は心臓の筋肉(心筋)の一部が壊死するため、心臓の収縮不全をきたします。また高血糖による心筋の微小血管障害や組織たんぱくの変性などを原因とする心臓の拡張障害による心不全も高率にみられます。

労作時の息切れ、夜間の呼吸困難、頻尿、足のむくみなどがよく見られる症状です。慢性心不全ではこのような症状がゆっくりと現れるので見過ごすことが多く、軽度の自覚症状でも医療機関を受診し検査を受けることが大切です。血液検査でBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という蛋白を測定すれば早期に心不全を発見することができます。

3) 糖尿病と脳血管障害

糖尿病では非糖尿病に比べ脳血管障害発症率が約3倍増加します。脳出血は増加しませんが、太い脳動脈の動脈硬化によるアテローム血栓性脳梗塞、細く小さい血管の障害によるラクナ梗塞、心臓などほかの部位にできた血栓が脳の血管に詰まる塞栓性脳梗塞は、健常者に比べいずれも約3倍増加します。さらに血糖コントロール不良群は良好群に比べ脳血管障害の危険性が3倍も高くなります。重篤なアテローム血栓性脳梗塞や塞栓性脳梗塞は半身まひ、言語障害、血管障害性認知症などをきたし患者さんのみならずご家族のQOLを著しく低下させます。

4) 糖尿病における心臓病や脳血管障害予防のポイントは?

糖尿病には高脂血症、高血圧症、内臓肥満、腎臓障害など多くの危険因子が合併しています。したがって血糖のみならず、血清脂質、血圧、体重のすべてを厳重に管理しなければなりません。血糖、血圧、コレステロールのすべてを厳格にコントロールすると、糖尿病患者さんの脳血管障害は58%も減少することが日本の研究で明らかにされています。禁煙も併せて総合的危険因子の管理が極めて重要です。

C. そのほかの合併症

これまで糖尿病の細小血管合併症や大血管合併症について述べました。これら以外にも糖尿病には、侮れない多くの合併症があります。癌、認知症、歯周病、骨粗しょう症などです。また合併症ではありませんが糖尿病に付きまとう「スティグマ」という社会的問題があります。

1) 糖尿病と癌

2型糖尿病には癌の合併が多いことが報告されています。日本人では、糖尿病患者が癌になる危険性は非糖尿病者に比べて男女とも1.2倍と報告されています。癌の種類としては肝臓癌が1.97倍、すい臓癌が1.85倍、大腸癌が1.4倍と高くなっています。

糖尿病に癌が合併しやすい理由はよくわかっていませんが、高血糖、高インスリン血症、慢性の炎症などの関与が想定されています。さらに糖尿病と癌には加齢、肥満、運動不足、喫煙、過量飲酒、不健康な食習慣(野菜、果物、植物繊維の摂取不足、加工肉の過剰摂取)といった共通の危険因子もあります。糖尿病治療薬がすい臓癌、膀胱がんと関連する、ある種の治療薬は癌の危険性を低下させるなどの報告がありますがまだはっきりしていません。

いずれにしても糖尿病は癌のハイリスクという認識を持つことが大切です。

2) 糖尿病と認知症

糖尿病患者は認知症になりやすく、認知症になると血糖コントロールが悪化します。糖尿病で頻度の高い認知症はアルツハイマー病と脳梗塞など脳の血管障害で起こる血管性認知症です。これらは糖尿病のない人の2~4倍も多いといわれています。糖尿病では脳動脈硬化が進行しやすく、脳梗塞が増加します。血管が詰まると末梢の血流が阻害され脳細胞の障害、死滅をきたし血管性認知症を発症します。物忘れ、段取りがうまくできない、動作が緩慢、感情のコントロールができないなどの症状が現れます。脳梗塞が再発するとさらに症状が悪化します。早期に発見しリハビリを含めた治療を早期に行うことが大切です。

アルツハイマー病と糖尿病には深い関係があります。アルツハイマー病はアミロイドβ(ベータ)という蛋白が脳神経細胞に蓄積し機能を障害することが原因で起こります。アミロイドβはインスリンを分解する酵素で処理されます。多くの糖尿病患者はインスリン作用が低下しており、血中にはインスリンが高濃度に含まれています。これを分解するためにインスリン分解酵素が消費されてしまい、アミロイドβの処理が間に合わなくなるのです。その結果脳神経細胞にアミロイドβが過剰に溜まり、アルツハイマー病が発症しやすくなると考えられています。

アルツハイマー病の症状は血管性認知症と似ていますが、脳の記憶に大切な海馬という部分が障害されるので、最近のことほど忘れやすい特徴があります。友人とレストランに食事に行く約束をしたとすると、「どの店であったか忘れた」という程度でなく、「約束したこと自体を全く覚えていない」と部分的でなく全体のことを忘れてしまう傾向があります。料理が上手にできなくなる、道に迷い家に帰れなくなるなどの軽い異常を経て、進行すると失禁、食事摂取困難、会話困難など多くの介護を必要とする事態に至ります。周囲の人がおかしいと感じたら早期に専門家の診察を受けることが重要です。

3) 糖尿病と歯周病

歯周病は歯垢の細菌が歯肉炎や歯を支える骨を溶かしてしまう病気です。進行すると歯が失われます。糖尿病があると歯周病の危険性が約2倍高まります。高血糖のため脱水傾向となり唾液による自浄作用が失われる、免疫能が低下しているため細菌感染への抵抗力が弱い、高血糖による歯周組織蛋白の変性など多くの因子が糖尿病患者の歯周病リスクを高めます。歯周病があると慢性の弱い炎症が持続するため血糖コントロールを悪化させます。一方歯周病の治療により血糖コントロールが改善することも報告されています。

歯周病が注目されているのは、糖尿病の悪化以外に全身の様々な疾患の誘因になるからです。寝たきりの高齢者では口腔内衛生が悪く、歯周病菌が増加し、誤嚥性肺炎を引き起こします。また細菌性心内膜炎の危険性が高まります。

さらに心筋梗塞、脳梗塞、妊婦では早産や低体重児の危険性が高まると言われています。毎日の丁寧な歯のブラッシングと定期的な歯科医での歯周病検診が大切です。

4) 歯周病と骨粗しょう症

骨粗しょう症は骨がスカスカになり、強度が低下して骨折しやすくなる病気です。骨の強度は骨密度(カルシュウムなどのミネラルの量)と骨質(微細構造や材質の特性)で決まります。糖尿病では骨密度は低下していないのに骨折しやすいといわれ、骨質の劣化が問題とされています。糖尿病では骨の新陳代謝が低下し古い劣化した骨の組織が増えています。

骨を強くするためには、運動(スクワット、片足立ちなど取り入れる)、エネルギー摂取適正化とバランスの良い食事内容に十分留意し、血糖コントロールを改善することが大切です。

5) 糖尿病とスティグマ

糖尿病があると不当な偏見をもたれ、社会的に不利益を被ることがあります。このような糖尿病患者に対する否定的偏見をスティグマといいます。糖尿病治療の目的は生活習慣改善や薬物療法により血糖コントロールを改善すること以外に、このようなスティグマを除去する努力も重要です。医療者のみならず社会全体で糖尿病患者を理解し支える姿勢が求められます。

3. 糖尿病の治療について

糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法です。効果が不十分ならば薬を併用します。薬に頼って食事療法や運動療法がおろそかになると薬の効果が減弱するため、効果の強い薬が必要となってしまいます。

A. 食事療法

基本は腹八分です。最近の食事は高カロリーのものが多く、それほど量は多くないのにカロリーは過剰ということが多々あります。食品の種類は多くして内容が偏らないようにします。血糖が上がりやすい主食を極端に制限しておかずばかり食べるのはよくありません。脂肪摂取過剰になりやすく動脈硬化が進行します。極端な糖質制限食は死亡率を高めることが報告されています。

カロリーが高くコレステロールが上がりやすい動物性脂肪は控えめにし、植物繊維を多く含む野菜、キノコ類、海藻類を十分に摂取します。果物は握りこぶし大までが適量です。三食欠かさず食べること、よく噛んでゆっくり食べることも大切です。

食べる順番にも注意します。まず野菜をしっかりと食べ、その後、肉や魚などのおかず、最後にご飯の順に食べると血糖が上がりにくいといわれています。

アルコールは1g7カロリーあり、油の9カロリーに匹敵します。できるだけ控えるようにしましょう。

B. 運動療法

ゆっくりと持続できるウオーキング、水泳などの有酸素運動が効果的です。ゴルフに行ったらできるだけカートに乗らないようにします。運動は長時間行うほうが効果的ですが、短時間運動の積み重ねも有効です。食後に行うのが基本です。朝食後通勤を利用して15分歩行、昼食後の休憩時間に15分歩行でも約3000歩になります。夕食後15分歩けば一日およそ5000歩が確保できます。また寝る前に腕立て伏せ、腹筋運動、スクワットなどを短時間行うとさらに良いでしょう。無理をせずできる範囲で努力することが大切です。

C. 薬物療法

「飲み薬やインスリンは一度始めたらやめることができない」という迷信から治療薬を拒む患者さんが時におられます。また新聞やテレビ広告などで喧伝される民間療法やサプリメントに頼り、治療薬開始が遅れる患者さんも見られます。血糖コントロールが悪いまま経過すれば重篤な合併症に悩むことになります。早期からの良好な血糖コントロールの維持こそが快適な糖尿病人生を送るポイントなのです。

糖尿病治療の最大の障壁は肥満です。肥満は糖尿病治療薬の効果を弱めるため、必要以上に多量の薬を投与せざるを得ません。食事療法・運動療法に熱心に取り組み、体重が減少した結果インスリンや飲み薬が中止できた患者さんも多数見られます。

糖尿病治療薬には多くの種類がありますが、効力が強く低血糖を起こす危険性の高い薬と、単独では低血糖を起こさない薬に分けられます。1型糖尿病や重症の2型糖尿病でない限り、まず低血糖を起こさない薬から開始し、効果が不十分なら2~3剤まで併用することがあります。

低血糖は糖尿病治療薬の副作用としてよく見られます。脳細胞はブドウ糖と酸素をたくさん必要とするので、低血糖になると危険信号が出ます。空腹感、手の震え、動悸、冷や汗などの症状です。早くブドウ糖を補給しないと時に低血糖昏睡となり意識がなくなります。重症の低血糖は虚血性心臓病や、認知症進行の誘因になることもあります。本人のみならず周りの人が異変に早く気付くことが重要です。ブドウ糖をたくさん含む飲み物や食物を摂取させる、グルカゴンという血糖上昇作用のある薬を点鼻するなどの早急な対応が必要です。

最近は糖尿病治療薬に血糖降下作用以外の臓器保護作用があることがわかってきました。最も注目されているのはSGLT2阻害剤という、尿糖排泄を増やす薬です。糖尿病では心不全が好発しますが、この薬は心不全を予防し死亡率を30%も下げることが明らかにされています。また透析に至る腎臓の悪化を抑制することも報告され、糖尿病の合併症予防に大きな期待が寄せられています。

低血糖を起こす薬は、インスリン以外にスルフォニル尿素剤(SU剤)、グリニド薬などがありますが、使用頻度が徐々に少なくなっています。高齢者や腎機能が低下している患者では少量でも重篤な低血糖を起こすことがあるからです。しかし少量を工夫して使えば有用性は高い薬です。

糖尿病治療の基本は何といっても食事療法と運動療法です。これだけで多くの患者さんの血糖コントロールは改善します。安易に薬に頼らず基本を守ることが経済効率の良い安全な治療なのです。

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